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無伴奏の宴 ※著者インタビューあり
山村靖著(文芸社)1155円

 ずっと長く別の世界で人生を歩んでいたのに、ここにきてなぜか出会う雄介と結香。二人の間に新しい静かな愛が生まれる。幾夜かの長い会話を縦軸に、二人のそれぞれの起伏に富んだ「来し方」、すなわち問わず語りに回想される愛の履歴を横軸に物語は進む。

 物語といってもドラマチックな「出来事」は起こらない。話題は地球環境問題から日米欧の比較国民性論、芸術論からグルメ談義、そして二人の未来像まで幅広く、だが淡々といつ終わるともなく会話のラリーが交されるだけ。そして夜が白々と明ける――。

 それぞれの長い時を経て巡り会った男女の会話が織り成す愛の物語を描いた作品である。
いくつになっても恋を
愛の物語をしたためた山村靖さん


 小説に興味はなかったという山村靖さんがふとしたきっかけで村上春樹の作品『国境の南、太陽の西』を手に取った。それが彼女を虜にした。以降、村上の作品はすべて読んだという。さらに読むだけでなく、彼女のなかの「書く」という衝動をも突き動かしてしまった。「体で感じてしまいました。それで書きたくなったのです」

 彼女の著したのは年を重ねた男女の恋愛小説。登場人物の視線、二人を取り巻く情景描写などその表現方法にも村上の影響が強く現れている。
 大学卒業後、様々な職業を経験した山村さんだが、再就職支援のキャリアカウンセラーとしての実績も持っている。自身の経験のみならず、このカウンセリングを通して見えてきた人生が物語のベースとなった。

「様々な人生があることに、そして人間の心の反応を探ることに関心がありますね。そこで感じたのが、年を取ったら恋愛できないという考えが幸せを逃しているのではないか、ということでした」
 恋愛に限らずいくつになっても新しいことはできる、そんなメッセージを愛の物語に込めた。

「カウンセリングのなかで、特に男性は企業社会に飲み込まれ、狭い世界で生きているということが見えてきました。そしていよいよ定年後を考えるときが来たとき、まず奥さんとのコミュニケーションが取れないんですね。それで結局同僚と飲み屋で管を巻いている。それではもったいないですよ。奥さんとの関係修復も含めて、新しい世界に飛び込まなければ」
 新しい恋愛があってもいいと山村さんは言う。「その恋愛にもいろいろな形がある。人生における一つの断片だと思います」

 山村さんはいま、緑豊かな丹波地方の一角、樹木の美しい庭に囲まれた瀟洒(しょうしゃ)な家に暮らしている。「私のピアノの先生のご主人がチェリストで、ご夫妻のデュオの演奏会を企画してファンを増やしていこうという活動を始めています。それで昨年、いままで住んでいた横浜を離れて兵庫に移り住みました」。音楽と自然とに囲まれた環境のなかで、人と人との微妙な心の絡み合いをテーマに、次なる物語の構想を練っているという。

「年代的にも広がりのある、もう少し人間関係が複雑な作品を書きたい。それにストーリーが流れていくような小説よりも、人と人とが紡ぎ合う関係性の描写を通して、何となく進んでいくようなものを書いていこうと思っています」
 山村さんの音楽的感性も相まって、彼女独自の表現が今年どう深まっていくのか、期待したい。
author:自費出版図書館, category:著者インタビューあり, 11:05
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