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青の食單(レシピ) 松英司歌集
松英司著(角川書店)2571円+税

 短歌愛好家が集う「星座の会」には様々な職業の歌人がいるという。著者の松崎英司氏もその一人。本職は会席料理店の板前だ。料理人歌人によるオリジナリティにあふれる第一歌集が本書である。

 著者は歌の初心者として会に加わり、板前として腕を振るいつつ、歌の勉強を重ねたという。結果、本書のタイトルともなっている五十首詠「青の食單」が第52回角川短歌賞の次席に輝く。

 「岩牡蠣」「抹茶ムース」など、料理人ならではの言葉が織りなす短歌はまさに「味わい深い」という言葉がぴったりで、「ほんとに料理人なのかなぁ」という同賞選者のコメントにもうなずける。料理人という特殊なスタンスと歌の技法が絶妙なバランスで融和している印象を受ける。

 また、著者の歌には勤め先である横浜をテーマにしたものも多い。異国情緒あふれる横浜の風景と彩り豊かな日本料理というコントラストも興味深い。
author:自費出版図書館, category:書評, 14:24
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凍野の兵卒―シベリア抑留の軌跡―
松岡美樹著(光陽出版社)

1925年生まれの著者は終戦間際の45年に輸送中隊に編成され満州に出兵、終戦後ソ連軍に投降し、シベリアへと抑留された。本書は自身のシベリア抑留の体験を基にしつつ、日本の戦後責任問題を論じた一冊である。

 著者の基本的なスタンスは、日本国政府は抑留された元日本軍兵士や残留邦人・残留孤児問題への解決・賠償をいまだ行っていないという問題意識にある。直接戦場に行き、そして抑留された実体験がベースとなっているため、その論にはリアルな説得力がある。また、シベリア抑留当時の苦労を語りつつも、「ロシア人カンボイを恨んだものだが、今になって考えると彼らも捕虜を置き去りにして数を減らしたらスターリンに処罰されるため、放置もできず撃ち殺すこともできず苦労していたのであろう」と、ソ連兵の立場を慮った記述もある。

 生きた体験記を一読すると、改めて先の大戦の戦後処理問題はいまだ解決していないとの思いが強くなる。21世紀の平和を考えるうえでも読んでおきたい一冊だ。
author:自費出版図書館, category:書評, 14:12
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教育の根本問題と教育立国への道 総合的・多角的視点
出井数彦・田中吉左右編著

 日本原子力研究所の科学者たちが綴る教育問題に向けたメッセージだ。出井氏は大学教授として教壇に立った経験があるものの、基本的にはひたすら基礎的な研究を続けてきた研究者。その彼が教育問題を世に問うているという点に本書の特色はある。

 研究者が今の日本の教育で問題点として挙げているもの。それはもちろん理科離れであり、学力低下でもあるのだが、いの一番で挙げていることが「道徳心」だという点が興味深い。知性、感性がいかに優れていても、利己的な行動ばかりをとる人間では幸福な結果を生み出しえない、というのが著者たちの主張だ。

 こうした教育内容の問題のみならず、教育制度・政策の問題も含め、総合的な視野で教育をとらえなおしている。教育の歴史、教育の国際比較もさることながら、今日的なテレビドキュメンタリーや過去の偉人の名言なども取り上げ、あるべき教育とは何かというテーマに迫ろうとする強い熱意が感じられる。

 著者たちを突き動かしているものはきっと、科学研究の現場で感じた強い危機感なのではないだろうか。
author:自費出版図書館, category:書評, 16:48
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山恋 第十巻
越川恵著(丸善京都出版サービスセンター)2858円+税

=南アルプス・北岳や九州・阿蘇山など17峰を踏破。山行記録『山恋』シリーズの第10巻=

 無類の登山愛好家である医師が綴った登山記。これまで登頂を果たした記録は実に364回。さらに、その山々の登山記録を長年に渡り記録し続け、本書ではついに第10巻目に突入しているというのだから驚きだ。

 本書に掲載されているのは、北岳・間ノ岳・農鳥岳(長野・静岡・山梨)、岳山・岩阿沙利山(滋賀)、乗鞍岳(長野)、阿蘇山(熊本)など。まさに全国津々浦々の山々を著者は制覇している。各々の記録も実に仔細に渡っており、分刻みの登頂記録が臨場感を与えている。

 山登りの熟練者である著者は、もちろん安全なルートを優先して登頂を目指しているが、それでもなお危険な岩場に遭遇するシーンもある。農鳥岳では傾斜80度もあろうかという道を切り進んでいくことになる。断崖絶壁をよじ登る写真は見る者をハラハラさせる。それでも、共に登頂する妻と助け合い、難所を切り抜ける場面はまさに映画のワンシーンのようだ。

 登山経験者でなくとも、山登りのドラマチックな魅力を体感できる一冊だ。
author:自費出版図書館, category:書評, 15:58
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公的年金会計論
合田昌文著

=大蔵省や関連特殊法人などに勤務経験のある著者が公表資料と著者自身の経験、直感を元に公的年金の累計収支決算を分析、問題点を探る=

 大正生まれ、大蔵省に勤めた著者が記す、珠玉の年金会計論である。

 崩壊するといわれて久しい公的年金。その問題点はどこにあるのか、著者は財務省の特別会計決算のデータベースなどを元に徹底的に読み解いていく。
 実務家らしく、会計理論を駆使した専門性の高い内容となっているが、そこから見えてきたのは、公的年金が余分な「過払い」を行ってきたということだ。これではいくら年金当局が「豊富な積立金がある」といったところで、将来の給付はおぼつかない。収支でいえば、収入(および積立)ではなく支出に問題があるといっているのだ。

 年金は世代間で支えていくものだとよく言われる。年金の不払い問題、そして少子高齢化の影響で「若者からの年金収入(および積立)が減り、お年寄りに払うべき支出が増すばかり」と、政府もマスコミも大騒ぎする。しかし著者によれば、ことの本質は「若者が年金を払わない」ことでも「高齢者が増え正規給付額が増えている」ことでもなく、余分な支払いがあることだという帰結になる。

 改めて年金問題を考えるうえで、ぜひとも読み解きたい一冊だ。
author:自費出版図書館, category:書評, 16:14
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6番目の季節
かとうけいこ作・おぐらあけみ絵(文芸の森社)1800円+税

 小学校の教員を務める傍ら、児童文芸創作に励む作者による楽しい詩集である。
 それぞれの詩は子どもを喜ばせる可愛らしさや優しい呼びかけがありつつも、どこかしら哲学的なテーマを感じさせる。

「すごいねママ
どうしてわかるの
おひさまみたい

それならゆみちゃんは
おひさまのこ
ヒマワリみたいよ」
(「はなばたけ」より)

 すべての詩には、愛らしくも繊細で緻密な絵が寄せられている。さらには歌がある詩もあり、ホームページにアクセスすれば、歌を視聴することもできるという。子どもが喜びそうな要素が詰まった一つの世界を創り出している。

 母親が子どもに読み聞かせ、子どもが情緒を深めていく。そんな絵本の世界はこれからも形を変えながら続いていく。そう感じさせる一冊だ。
author:自費出版図書館, category:書評, 16:02
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折れた翼
山本延枝著(東京創作出版)

 自分史のノンフィクション小説である。主人公・伸子の生い立ちから、看護師となり結婚に至るまでの経緯。さらに結婚生活での夫の違和感。そして離婚。夫婦の愛憎がリアルに描かれている。

 著者はおそらく客観的な記述をしようと、小説という形態を選択したのだろう。しかし、それゆえに著者の気持ちの波がリアルに伝わってくる。迫力のある小説に仕上がっている。積年の積もり積もった思いが一気に文章にぶつけられたのに違いないが、自分勝手な思い込みで書かれた小説ではなく、抑制の効いた文章で綴られ、読む者を惹きつけるのである。この小説を読み終えると、ホッと肩に入った力が抜けるような感じを読者は感じるだろう。

 著者にとっても最初で最後の作品になるに違いないが、作品として質は極めて高い。自費出版というジャンルでこそ、出会える作品ともいるだろう。
author:自費出版図書館, category:書評, 16:40
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マイアミ発異文化紀行
鹿住一夫著(文芸社)1600円+税

 戦中に台北の地に生まれ、帰国後商社に就職した著者はニューヨーク支店を皮切りにカナダ・トロント、ヴァンクーバーなどの地に駐在した経験をもつ、バリバリの国際派だ。そんな著者が「9・11」以後のニューヨークを再度訪ねるところから、この旅行記の記述は始まる。以下、ニューオリンズ、フロリダといったアメリカの地はもとより、ペルー、中国、カンボジア、フランス、ロシアと世界各国の旅行記が収録されている。一読するだけで世界中を旅しているような気分が味わえる、そんな幸福感が満喫できる一冊だ。

 長年の国際経験を持つだけあり、著者の歴史・文化・風土に関する知見・洞察の深さには驚かされる。単なる個人の「旅行体験記」ではなく、それぞれの地にまつわる歴史的な背景、今日的な問題を学べる書にまとまっている。

 中国の項で掲載されている著者の詩も、また味わい深い。欧米の地にまつわる詩があると、なお一層深みが増しただろう。
author:自費出版図書館, category:書評, 15:50
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シニア向け海外旅行術―60歳からのセンチメンタル・ジャーニー
阿部基治著(青春ノート)1400円+税

 「定年になったら、海外旅行を存分に楽しみたい」と思っているシニアは多いに違いない。本書はそんなシニアの方々に最適の「海外旅行心得」になるに違いない。

 本書は単なる海外旅行のノウハウ本ではない。もちろん海外旅行のプラン作りの方法から準備すべきものまで、必要十分に説明がなされている。しかし、本書を際立たせているのは第2章「私の楽しい旅」に書かれた、著者の映画と戦争をテーマにした旅の記録である。著者はこう記している。
「世界中に、戦争の跡が残っているのです。旅の中で、私の念頭から、戦争という文字が離れることは、滅多にありません」

 それでも著者は世界各地を巡りながら、戦争で亡くなった犠牲者に手を合わせ、平和を願い続ける。

 本書を読めば、旅行の意味を改めて考えさせられるだろう。美しい自然や景観、美味しい食べ物も海外旅行の楽しみの一つであるに違ない。しかし、それに加えて、知的好奇心を持つことで海外旅行の意味は深くなるものではないだろうか。

 だからこそ著者は「世界を旅して得たものは、お金には換えられない、貴重なものばかりでした」と言い切ることができるのだ。
author:自費出版図書館, category:書評, 12:30
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李香蘭表紙雑誌集覧 白蘭記 遠い日の李香蘭は美しく 第1集 戦前李香蘭時代篇
藤永佳生編著(松永秀一発行)

 戦前、中国と満州で、映画女優として、歌手として活躍した李香蘭は本名を山口淑子(旧姓・現在大鷹淑子)という日本人だった。

 日中戦争開戦翌年の1938年には満州国の国策映画会社・満洲映畫協會(満映)から中国人の専属映画女優「李香蘭」(リー・シャンラン)としてデビュー。流暢な北京語と日本語、そしてそのエキゾチックな顔立ち、透明感のある歌声は日中で人気を博した。敗戦まで中国人と信じられ、敗戦後には中華民国政府の軍事裁判にかけられたが、日本人であることが立証され、国外退去になった。戦後は日本の芸能界で活躍し、後に参院議員になった。本書は一ファンが蒐集した、李香蘭が飾った戦前の雑誌のフィルモグラフィーである。

 編・著者の藤永佳生氏は2003年に『李香蘭を探して―あるファンの恋愛的写真集―』を私家版として出版しており、李香蘭に対する並々ならぬ愛情が感じられる。本書に掲載された22冊の雑誌の表紙の李香蘭の表情は魅力にあふれ、見る者を惹きつける。藤永氏の愛情が60年以上の歳月を経て、李香蘭を現代に蘇らせたといえよう。

 著者には李香蘭の解説や思いをぜひ機会を改めてまとめてもらいたい。
author:自費出版図書館, category:書評, 14:30
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